『伝えることからはじめるiPS細胞の時代』  八代 嘉美 特定准教授(CiRA上廣倫理研究部門)

○ 八代先生ってどんな人でしょう

幹細胞研究として著名な、東京大学・中内先生、慶応義塾大学・岡野先生、東京女子医科大学・大和先生、CiRA・山中先生のもとで研究をされました。幹細胞研究者としてこれだけの先生について研究された方は他にはいないのではないでしょうか。つまり、幹細胞研究の「役満」とか\(^o^)/ 研究をしながら、幹細胞研究者が生命倫理を考えることも必要と考え、生命倫理の研究を始められたとのことです。

 

○ ところで、八代先生の考える生命倫理ってどういうことですか

生命倫理とは、これまでの歴史が培ってきた生命に対する眼差し、考えであると同時に、その時代に生きている様々な人々の考えやコンセンサスの一つの表れであると考えます。

 

○ 「HOPE(希望)」と「HYPE(誇張)」、一文字違いで大違い

医療に応用するときによく言われるのが「HOPE(希望)」と「HYPE(誇張)」です。幹細胞からはいろいろな細胞をつくることができるため、使われる目的も様々です。山中先生がノーベル賞を受賞された時の新聞報道を見ても、iPS細胞の医療応用に過剰な期待感が示されています。

 

○ 再生医療とは、アンチエージングですか?、それとも豊胸ですか?

「再生医療」という言葉はまるで今ではまるで『バズワーズ』のように使われています。基本に戻るために、日本再生医療学会のHPにおける「再生医療」の定義を示します。「機能障害、機能不全に陥った生体組織や臓器に対して細胞を積極的に使って、その機能を再生してやろうというもの」。その意味で、アンチエイジングや豊胸などは再生医療からは逸脱したものと言えましょう。

 

○ 期待しすぎず、失望しない

新しいテクノロジーが生まれると、大きな期待が生まれます。しかしその期待が過剰であるほど、その後、たいしたことなかったと失望することが多いものです。このように失望の谷底に落ちてしまうと、本当の成果を評価できるところに戻るまで時間がかかります。過剰な期待をいだくのではなく、正しい理解や知識を得ることが大切です。正しい理解や知識を得ることで、谷底に落ちてしまう無駄な時間を極力減らすことができます。このことが一日でも早く再生医療を実現する近道なのです。

 

○ 1990年代の科学コミュニケーション

これまで考えられてきたコミュニケーションは、PUS(Public Understanding of Science)という考え方でした。科学者が市民に向かって、科学や技術の知識を広め、科学を理解するよう呼びかけます。市民に正しい知識を補えば、市民も正しい判断ができるというのが、科学者側のコミュニティの考え方でした。つまり市民に知識を補いさえすれば、科学は市民に受け入れられると考えました。

 

○ iPS細胞の時代の科学コミュニケーション

しかし近年、PUSは正しくないと言われるようになりました。新たに大切と考えられるようになったのは、「双方向性」です。PES(Public Engagement in Science)という考え方で、市民としての関与を求めるものです。知識があっても反対という場合は多々あります。この観点から、iPS細胞の研究、再生医療の研究を「伝える」ことは、一方通行ではなく、双方向でつなげることが必要であり、社会と一緒に研究者がものを考えていくことが大切なのです。価値観をどのように作っていくかは、「伝えること」と「人々と対話すること」によって生まれてくるのです。

 

○ もっと八代先生の話を知りたい人には、先生の書かれた本をお読みください。

 iPS細胞 世紀の技術が医療を変える(平凡社新書)

 再生医療の仕組み(共著)(エスカルゴ・サイエンス)