2.細胞シート技術を利用した1型糖尿病治療の開発 山下助教のお話

東京女子医大 膵臓研究担当:

    山下信吾先生、鵜頭理恵先生、藤田泉先生、河村由美江先生、大橋一夫先生

福島県立医科大学:

    花山寛之先生、清水裕史先生、斎藤敬弘先生、伊勢一哉先生、後藤満一先生

1型糖尿病の治療

1型糖尿病はβ細胞の障害によりインスリン分泌ができなくなり発症します。膵臓の大きさは、大きいバナナ1本分くらいで、その内、膵島のある内分泌細胞は5%くらいしかありません。

現在1型糖尿病の治療は、基本的にインスリンの補充です。血糖を自己測定し、自己注射するという方法です。近年、日本では移植法の改定があり、β細胞の補充(膵臓移植、膵島移植)が選択肢として登場しました。生物学的な先端医療として、β細胞の補充という観点からの進化を目指しています。インスリンの補充という観点からは、人工膵臓なども研究されています。

 

インスリンを出す細胞を体に入れる

           -β細胞の補充

β細胞の補充という観点からみると現在、膵臓移植と膵島移植という方法があります。膵臓移植は脳死ドナーや生体間で行われますが、大きい臓器の移植なので全身麻酔や大きな血管吻合が必要で、合併症などの心配もあります。しかし移植がうまくいけば、かなりの率でインスリン離脱ができます。

最近では膵島だけを移植すればもっと簡単に患者に提供できるとして、欧米を中心に膵島移植が進められています。日本でも今年の4月から臨床試験がスタートしました。

こういった状況の中で、私たちは、より安全でより侵襲の少ない新たな膵組織(膵島細胞シート)の作製を目指しています。現行で行われている膵島移植の膵島をさらにバラバラにして、岡野先生の開発した培養皿で膵島細胞シートを作っています。

 

膵島細胞シートを移植した糖尿病のネズミがインスリンを分泌した

私たちはネズミの膵島をバラバラにして、膵島細胞シートを作製したところ、培養皿上でグルコースに応じたインスリン分泌が認められました。その膵島細胞シートを、糖尿病のネズミの皮下に移植しました。23日もしないうちに血糖が下がり、持続的に正常な血糖値を維持することができました。インスリンの分泌があるため栄養状態も改善し、体重も正常どおり上昇しました。

 

ヒトの膵島細胞シートは、ここまできている 

ネズミとヒトでは膵島の組成も違うので、ヒトの膵島でもできるかを研究しなければなりません。しかし日本の現行の法律では、亡くなった方の膵島を研究で利用することは許されていません。そこで、私たちはカナダのアルバータ大学から空輸によりヒトの膵島をいただいています。カナダのアルバータ大学は膵島移植を先進的に行っている大学です。そこから共同研究として膵島を提供していただき、届いた膵島を使って研究した結果、ヒトの膵島シートの作製に成功しました。この膵島細胞シートは、グルコースに応じたインスリン分泌が確認されていることから、今後のさらなる発展と治療応用が期待されます。

 

細胞シートのこれから

膵島細胞シートはラット、マウスからヒトへと研究も進んでいます。また、凍結細胞が利用できないか、他の細胞との併用や薬剤を付加することにより免疫反応を抑えられないか等の研究も行っています。

最終的には、iPS細胞や他種動物から膵島ができればいいのですが、それまでの間は現状の膵島移植と並行して、ドナー膵島から膵島を単離することによって研究を進め、治療に活かしていきたいと考えています。

できた膵島シートをどこに移植するのか等、研究の課題はたくさんありますが、「患者さんに選んでいただける治療法を開発する」という夢をめざして研究を進めていきたいと考えています。

(3回に続く)