1.治らない病気をどうする? 日本の医療の問題とTWInsの試み 岡野教授のお話

岡野教授(右)と金井助教(左)
岡野教授(右)と金井助教(左)

医学は目の前の患者を治すのが医学だと思っている。では治らない患者は誰が治すんだ。そこをやりにいかないと

日本の薬は輸入が17兆円で、輸出が0.1兆円。つまり16兆円の輸入超になっています。日本はいい医療をやると言いながら、アメリカから薬を買ってきて治療をしているのが現状です。このお金が稼げない時代が来たときどうするかを、本気で考えないといけないところにきています。

ハイテクは日本にたくさんありますが、そのまま病院や手術場に持ち込まれたら危険なので、厚労省が関所をもうけています。安全なものしか使わせないということで、ハイテクを持ちこむ仕組みをつくってきませんでした。しかし、これからはハイテクを持ちこむための仕組みが必要です。

2008年にTWInsができ、ここで医学の解かるエンジニアと、エンジニアリングが解かる医師を育てています。新しいタイプの医師を作るために、「工学系学生」「企業技術者」「医師」「獣医」が一緒に研究をしています。3階のフロアには、7つの企業(日立、テルモ、オリンパス、旭化成、日本光電、大日本印刷、セルシード)が入り、医師とエンジニアが一緒に共同研究をすすめています。

 

重要な膜たんぱくを残したまま、貼りつけて移植できる細胞シート

iPSはスゴイ技術ですが、iPSができれば再生医療がすぐに実現できるかというと、そうではありません。また、これまで行われてきた細胞治療では、移植しても生着が悪く移植するためには、コラーゲンのような細胞の足場が必要と考えられてきました。

私が開発したのは、細胞をばらばらに回収するのではなく、1枚のシート状にして回収できる方法です。これまで細胞はシャーレ(培養皿)にくっつけて増やし、回収するときは分解酵素で細胞をばらばらにしていました。しかしその酵素で重要な膜たんぱくも切られてしまい、移植治療で効率よく使うことができませんでした。

細胞は親水性のものにはくっつきませんが、水をはじく疎水性のものにくっつきます。温度により疎水性から親水性に変わるものの上で培養すれば、温度を変化させればシャーレについた細胞を、酵素を使わずはがせるのではないかと考えました。37℃で水をはじく疎水性、20℃で親水性に変わるというポリマーを、20nmという目に見えない厚さでシャーレ表面につけました。そこに細胞をまくとシャーレいっぱいに増え、その後温度を下げると、細胞は1枚のシートとしてシャーレからはがすことができます。このシートはスコッチテープのように片面糊になっているので、貼り付けて移植することができます。

 

例えば、細胞シートは目にも利用されています。やけど等で角膜の透明なところの細胞がやられると、結膜という周りの細胞が透明なところを覆ってしまい見えなくなります。薬の副作用で角膜が濁ってしまう人もいます。角膜は一度濁ると、角膜移植でないと治りません。

しかし日本では移植数が少ないのが現実です。そこで私たちは、患者本人の口の細胞を2mmとり、2週間かけて細胞シートを作り、目に貼りつけるという治療を行いました。世界初の治療です。この治療により、20年以上見えなかった人が、その日の夜から見えるようになりました。

細胞シートを利用した治療例として、食道がんの治療があります。食道がんの場合、内視鏡で大きくぐるりと患部を切り取ります。しかし組織を取ると狭窄といって、ひきつって縮みます。そのため2か月程度の入院が必要でした。私たちは患者の口の細胞から細胞シートを作成し、患部に貼りつけました。すると狭窄が起きず、傷の治りも早く短期間の入院で済みました。

同じように、皮膚の細胞から膵臓の細胞が作れるようになれば、それをシート化することもできます。シートを0.1mm以上厚くすると酸素と栄養分が細胞に入っていかなくなりますが、毛細血管を入れられる1mmの厚い組織を作る研究も進んでいます。そうなれば、肝臓、すい臓もターゲットになるのではないかと考えています。

 

治療は患者が選択すべきであって、国が選択するものではない

日本の医師法、医療法では、女子医大で作ったものを女子医大の中で使うことは許されています。しかし、女子医大で作ったものを他の大学で使用することは許されていません。その場合は薬事法が適用され、厳しい規制により煩雑な作業が求められます。

『治せる患者さんを治させろ。』と私たちは言うのですが、国は世界初だからと問題を起こされるのを怖がります。しかし、治療は患者が選択すべきであって、国が選択するものではないと僕は思いますが、皆さんはどうですか。

こういう新しい分野は、20世紀の医学部、工学部のままではできません。全く新しいTWInsのような医工連携の施設が安定して研究を進められなければ、せっかく育った医師が20世紀型の病院に戻ってしまいます。これでは意味がありません。こういう21世紀型の施設をつくり、人も育てないといけないのです。

「治らないのはしょうがないだろう。我々の責任でない。」と言って、治る人だけ治している専門医でいいのでしょうか。それでは治らない患者はいつまでも治らないままです。

国民も患者もともに、新しい医療を実践する医師たちがちゃんと働ける環境をこの国に作っていかないといけません。アメリカが3兆円の投資をしていい医療を作って稼いでいるのに対して、日本は研究にお金をかけないために、3兆円で薬、医療機器を買ってきているという、とんでもない国になっています。私も内閣府でも仕事を始めて、政府の人たちに変えようと働きかけています。

一般の国民の立場から日本の医療を新しいタイプの研究、人を育てるために投資しろと、いろんな形で声をあげてもらえたらいい支援になると思います。 

(2回に続く)

 

こちらから岡野教授の出演番組が見られます。

20091013日 NHK 『爆笑問題のニッポンの教養 FILE087:「あなたの細胞生き返ります」』http://www.nhk.or.jp/bakumon/previous/20091013.html

2011110日 NHK 『プロフェッショナル仕事の流儀 “夢の医療”に挑む 再生医療・岡野光夫』http://www.nhk.or.jp/professional/2011/0110/index.html