4.質疑応答

Q:膵島の寿命というのはどのくらいですか。

A:マウスの実験でいうと3カ月くらいは構造を保っていますが、それ以上は実験で確かめていないので判らないのですが、移植した膵島が増殖するとは考えていません。ですからハイドロゲルファイバーのように取り出し可能な技術を使いたいのは、取り換えができるというメリットがあるからです。

 

Q:定期的に取り換えるということは、移植した細胞が増えることは想定していないということですか。

A:そうですね。膵島移植でも5年以上のインスリン離脱というのは非常に少ないです。

 

Q:1型糖尿病にかかってしばらくはインスリンの分泌が残っている方が多いと言われていて、分泌が残っている時の方が全く出なくなってからよりコントロールも良かったと思います。iPS細胞を移植する場合、完全にβ細胞が破壊されている人よりも、少しでもβ細胞が残っている人の方が治りやすいという研究とかありますか。

A:我々はまだそのようなデータは持っていません。膵島がたくさんできればいろいろな実験もできますが、まだそれほど多くの膵島ができていないというのが現状です。

 

Q:細胞の培養についてですが、東京女子医大の岡野先生のところでは細胞シートの研究をしていますが、あのイメージは先生の研究に適応できないのですか。

A:岡野先生の細胞シートは心筋や目の研究では使われていますが、私たちの目的には向かないと思っています。私たちは膵島という3次元的な構造体を考えています。細胞シートは1層の細胞のシートでそれを重ねて心臓に貼るなどしていますが、3次元の構造体を作るという目的には有効ではないと考えています。

Q:コストについては今後の技術開発で劇的に変わっていくと思いますが、現状で例えばマウス1匹に必要な膵島を作るためにどのくらいかかりますか。

A:マウス1匹に培養の試薬代だけで十万円以上必要ですね。培地やサイトカインにお金がかかるので、培養の効率化やサイトカインを低分子の化合物に変えられないか、という事も考えなくてならないと思います。

 

Q:大量培養の時にサイトカインは、どんどん変えなくてはいけないのですか。

A:再利用できる方法を考えています。培地から老廃物を取り除き、サイトカインを一定の濃度になるように補充する方法を開発したいと思っています。

 

Q:とても驚いたのは、分化の過程をすべて追っていき膵島を作っているという事です。iPSのように3個か4個の遺伝子を入れてできるものではないのですね。

A:そういう研究もないわけではありません。ダイレクトリプログラミングという方法で、繊維芽細胞から心筋や肝臓の細胞を作ったという報告はありますが、それが実用になるかというとそれは別問題です。やはりどこかで細胞を大量に増やさないといけないわけです。分化転化した細胞がその状態で大量に増えてくれれば可能かと思います。そういう方向で研究している人もいます。

Q:前駆細胞を自己複製させるという技術はあるのですか。

A:それは一番やりたい技術です。それができれば長い分化の過程を踏まなくても済みます。iPS細胞は大量に増やせるのですが、そこから多段階の分化過程をへて膵島に分化させて増やすというのは、それほど簡単ではないです。

 

Q:完成した時のイメージとしては、iPSを使って細胞を培養してハイドロゲルファイバーを編んだシートに入れて移植する、それが減衰したらまた新たにシートを移植するということを繰り返していくというイメージですか。それは半年なり、1年といったスパンでしょうか。

A:そういうイメージです。年数は、もう少し持たせたいと思います。膵島移植で5年くらいといわれていますから、現状でできるとはいえませんけれど、目標はその辺りです。永久に持たせるのは無理だろう思います。私たちは今回行われている目の移植と違い、自家移植ではなく他家移植(他人の細胞)を考えています。自家移植は患者さん自身の細胞からiPSを作り、目的の細胞に分化誘導して安全性を確認といった多くのステップがありますので、大変費用もかかりますし時間も年単位でかかりますので、あまり現実的はないと思います。

これは夢物語と思われるかもしれませんが、iPS細胞を加工してファイバーのシートができて、それをどこか工場のようなところで作るという体制が究極的には理想だろうと考えています。

 

Q:がん化というのは入れた細胞が何かの原因で増殖してしまうということで、この手法のように定期的に入れ変えていればなりにくいということですか。

A:分化させた細胞ではあまりがん化は心配されていません。一方、ES細胞やiPS細胞それ自身を移植するとがん細胞になることが分かっています。そこで、いくら分化誘導したとしても、そこに未分化のES細胞やiPS細胞が残っていればがん化するのではないかということが心配されています。しかし、分化の途中の段階で細胞を分離すれば、未分化細胞が残っている可能性は極めて低いので私は比較的楽観的に考えています。

Q:ここで膵島を使うというのはヒトインスリンを作らせるために、使っているという事ですか。

A:β細胞だけ分化してやればいいかというとそうではないと思います。膵島を移植することの意味は、α細胞なども含まれているので血糖値の制御がうまくいくということかと思います。

 

Q:ハイドロゲルを使って、免疫を隔離しているので誰の細胞を使ってもいいわけですか。

A:はいそうです。

 

Q:ということはブタのiPS細胞でもいいのですか。その場合、何か違いがあるのですか。

A:ブタの膵島でも機能するならそれでもいいかもしれませんし、実際にそういう研究も行われています。いろいろなアプローチがあっていいと思います。今の段階で何がいいかとは一概に言えないので、それぞれの研究者がよいと思った方法を追求するのがよいと思います。

 

Q:先生の研究はバイオサイバネティクスというか、人工膵臓と同じ制御をバイオで、つまり細胞でやろうとしている。そういうイメージですか。

A:そうですね。細胞を使ったデバイスと言ってもよいかと思います。

 

Q:今後のロードマップとして、ヒトの臨床研究ができるまではあとどのくらいでできる見通しですか。

A:文科省的にはできるだけ早くということで、7,8年で臨床に入っていなくてはいけないと言われています。一生懸命やっていますが、いろいろな課題がありますので、もう少し時間がかかるかもしれません。

Q:国際的には日本の研究は進んでいるのですか。

A:国際的にみても、論文ではiPS、ESから分化誘導したらインスリン産生細胞ができましたと言うところまでですね。膵島までできたのは私の研究室のところの渡邊さんが最初だと思います。企業などで論文を出さないでやっている可能性はあるかもしれません。

 

Q:サイトカインを入れて分化誘導するステップが何段階かありますが、その度ごとに目的とする細胞を取り出してくるのですか。

A:いえ、途中までは同じ培養皿のなかで培地だけ交換していきます。

 

Q:最後の膵島細胞、または膵島前駆細胞はどうやって選別するのですか。

A:今いろいろと考えているところです。

 

Q:最初に培養し始めた細胞から言うと、何割くらいが前駆細胞の状態になるのですか。

A:分化のステージによるのですが、内分泌系ではなくもう少し前の段階だと、8,9割まで持っていけるかと思います。まだその先が長いので、だんだん減って行くと思います。

Q:Xeno-free培地を用いるのは、通常の培地では臨床的にダメだからですか。

A:2つ意味があります。1つはおっしゃる通り安全性の観点からです。もう1つは、血清にはロットによる差が大きく、しかも常に同じものを入手できるか分かりません。ロット差を避けるためにも血清はない方がいいのです。長期的には無血清の培養系であれば安全性の問題もクリアできるし、培養も安定すると考えています。

 

Q:臨床試験に入ってから実用化されるまで何年くらいかかりますか。

A:こういう研究は常に改善していかなくてはならないので、どこで臨床試験に入るかという問題があります。いったん臨床用プロトコールを決めると、あまり変更することはできなくなります。ですから前駆細胞を増やしてからつくったiPSでやるのか、あるいはiPSから各ステップを経て分化誘導してやったものでやるのかで異なります。私たちは前駆細胞を増やしてから膵島を作るのがよいと思っているのですが、その技術はまだ完成してませんので、現時点でいつ臨床に入れるかと言うのは難しいです。

 

Q:分化が進んだ細胞は人間の身体の中でもそんなに増殖しないと思いますが。

A:発生の過程では、どこかで必ず増える時期があるので、そういう状態を捕まえようと考えています。

Q:先生のところの研究は特許とかで抑えられているのですか。

A:これは非常に難しい問題です。特許は確かに重要ですが、費用もかかりますし何でもかんでも特許にすればよいというものでもありません。いろいろな角度から考えなくてはなりません。企業の立場と基礎研究者では、何を優先するかということに違いが出てきます。また、培養方法などは必ずしも特許になじまないかもしれません。特許戦略というのは実はかなり難しい問題ですので、専門家と相談しつつ進めていきます。

 

Q:我々患者の立場からすると、できるだけオールジャパンの体制で研究者の人が協力し合って進めていただくのが一番。あまりここに特許で押さえてられてしまうと・・・。

A:それはそうですね。考え方の一つとしては全部公開してしまえという考え方もあります。しかし最終的には、企業が関与してくれないと実用化は難しいと思います。その際には、知財の問題は必ず出てきますから、知財はきちんと確保しなければなりません。

 

Q:日本では細胞シートを作る民間企業がありますが、再生医療をやっている企業は他にもあるのですか。

A:まだあまりないと思います。最近再生医療に入ってきたいという企業がいくつか出てきていますが、それほど多くはないです。日本の製薬企業も興味は持っていますが、もう少しこの分野も進まないと、企業もなかなか入ってきにくいのでしょう。膵島に関してはまだ企業的にはハードルが高いかなというところですかね。

 

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宮島先生、研究室の皆様、長時間ご丁寧にご説明いただき有難うございました。

研究が順調に進展するよう、心より応援しています。