3.臨床応用に向けての協力体制

さてこの先、臨床応用となると様々な課題がでてきます。最大の問題は移植に必要な膵島の数が現実的に調製可能かということです。これがクリアできないと次に進みようがありません。もちろん安全性の問題もあります。また、治療の対象として想定しているのは1型糖尿病の患者さんですので、免疫抑制という課題もあります。さらにコストの問題もあります。

文部科学省の「再生医療実現拠点ネットワークプログラム」の中の「疾患・組織別実用化研究拠点」として複数の機関と協力して研究を進める膵島プロジェクトが採択されました。多くの課題を乗り越えて臨床応用を実現するためには、いろいろな分野の研究者の協力が必要です。東大では、分子細胞研究所、生産技術研究所、総合文化研究科、東大以外では、国立国際医療研究センター、実験動物としてマーモセットを扱うため実験動物中央研究所、大量培養装置の開発ということで株式会社カネカに協力してもらうことになりました。

① 膵島分化誘導系の改良

培養する際、段階的に何種類ものサイトカインを加えていくのですが、これが大変高価です。各ステップでいかに効率化を測るかが課題です。また、各ステップでの培養に時間がかかるので、最終分化直前の膵内分泌前駆細胞のような細胞を大量に増やせないかとと考えています。もしそれが可能となれば、大量に増やした細胞を最後の成熟段階に移すだけで膵島ができることが期待されますので、効率よく大量の膵島が作れるのではないかと考えています。

 

② Xeno-free培養系

一般に細胞の培養にはウシの血清の入った培地を使いますが、安全性の観点から臨床には使えませんので、ウシの血清など動物由来の成分を含まない培養系(Xeno-free)で膵島をつくる研究も行っています。

 

③ 大量培養系

培養に関してはサイトカインが課題です。これは非常に高価で、しかも大量培養系に入れていくといくらお金があっても足りないという状況です。培養していると細胞からいろいろな老廃物が出てきます。それを除いて、サイトカインだけはちゃんと残しておくような培養系をつくることを考えています。

 

④ マーモセット糖尿病モデル

マウスは体重が20-30gです。マウスよりヒトに近い動物として、一般的によく使われるモデル動物はミニブタやカニクイザルですが、体重にすると20kgぐらいあります。現在それほど大量の膵島が簡単にできないので、小型のサルのマーモセット(300−500g)をモデルにして膵島の機能や安全性を評価しようと考えています。次にカニクイザルも試す必要があるかもしれませんが、その場合には今の培養スケールを数1000倍に上げなくてはならなく、クリアすべき最大の課題といえます。マーモセットにはまだ糖尿病モデルがないので、糖尿病モデル作りから始める必要があります。

⑤ 免疫隔離ファイバー

生産技術研究所のグループはハイドロゲルファイバーという免疫隔離膜を作っています。これに膵島細胞を閉じ込めて移植すれば、安全性が担保できると考えています。ファイバーには穴があいていて、インスリンのような低分子のものは自由に通過できますが、細胞は出ることができません。つまり免疫細胞のアタックも受けません。特に1型糖尿病の患者さんには免疫の問題があるので、iPSから作ったものをハイドロゲルゲルファイバーに閉じ込めて移植するという方法を考えています。

ラットの膵臓から分離した細胞をハイドロゲルファイバーに詰めてマウスの腎臓に移植し、血糖値を正常に維持できることをすでに確認しています。マウスでは20 cmのファイバーを入れればよいのですが、ヒトでとなるとかなりの長さが必要で、あまり現実的ではありません。そこで、ファイバーを折りたたんでシート状にしたものを移植することなどを考えています。移植する場所も、皮下がいいのか筋肉がいいのか、といったことも今後の課題です。

 

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技術開発期間は今年も含めて3年くらいしかないのですが、マーモセットに移植できるところまで持っていきたいと考えています。これがクリアできれば次のステージに進むことができます。まだ課題はたくさんありますが、この分野で一番アクティブな研究者を集めて研究を進めているので、臨床まで持っていければいいと考えています。

 

⇒ 4.質疑応答