不便な生活を余儀なくされている患者さんが現実にたくさんいながら、移植可能な臓器は圧倒的に不足しています。この課題を解消するために、患者さんから作ったiPS細胞で動物の体内を使って移植可能な臓器をつくろうと、研究されています。
現在、ラットの膵臓をマウスの体内で作ることまで成功しています。

さらに今年、膵臓を作ることができないブタの体内で別のブタの膵臓を作ることにも成功しました。

この成果を利用して、臓器欠損動物にヒトの臓器を作ろうと研究を進めています。

 

ヒトの細胞を動物胚に移植したものを、特定胚または動物性集合胚と呼びます。
この特定胚を使う実験を日本で行うためには、ガイドラインに従わなくてはなりません。そのガイドラインに則った研究計画を上に示しました。

実験から現在のヒトiPS細胞はマウス胚との間でキメラ形成能がないことが分かりました。一方、海外ではガイドラインにより規制されることなく、同様の研究が進められています。アメリカでは2006年、ヒトES細胞をマウス胚の中に入れ動物集合胚を作り、マウス子宮内で発生させることに成功しています。2006年というのは、ブッシュ政権下でES細胞の研究は厳しく規制され法的資金を使うことは禁じられていましたが、アメリカには民間資金が多くあり、その潤沢な民間資金を使い研究が進められています。

 

1)   ヒトiPS細胞にはキメラ形成能がないことが分かったので、現在世界中で、マウスiPS細胞と同等のヒトiPS細胞をつくろうと研究が進んでいますが、それを評価する仕組みが必要です。日本では集合胚を動物の体内に移植することができないため、研究が進みません。

また動物性集合胚の研究をしているのは、国内では中内研のグループだけです。使い勝手のよいガイドラインに改定されれば、もっと多くの研究者が従事し、研究の進展が加速すると期待されます。

 

2)   このような実験をしているとよく聞かれるのは、ヒトと動物のキメラを作ったときに、ヒト細胞が脳や生殖細胞をつくったらどうするのかということです。私たちはそれを回避するためにいろいろな手段を考えて研究をしています。しかしそのようなリスクが考えられる一方で、ヒトに応用された場合、本来なら死んでしまう子どもの命を救うことができるかもしれません。

きわどい技術には、リスクとベネフィットがあります。その両方を正確に把握して社会としてどちらを取っていくか、どういう社会にしていくのかという議論していくこと大事であると考えています。

 

3)   一研究者としての希望を述べさせていただきます。2001年 特定胚指針が策定、2006年 山中先生のiPS細胞発見、2009年 私たちが特定胚の研究を申請、2010年 動物の体の中で臓器を作れることを報告。

このように急速に研究が進展しているため、指針を策定した2001年段階では、特定胚の研究の重要性は全く予見できなかったのでしょう。2010年にその重要性が分かり3年たちましたが、指針は改定されていません。一度決めたルールは簡単には変えられないものです。

これから新しいルールを作るという議論もありますが、今のうちから規定してしまうのは難しいのではないでしょうか。規則を詳細に決めるのではなく、個別審査を厳密にするのが重要だと思います。