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情報は一方的な発信にとどまらず、専門家と一般の人々が共に課題にアプローチできるように、双方向なコミュニケーションを目指します。

 

第1回 日本のエネルギーを考える

 

第1回は日本のエネルギー問題について、トラウム・パートナーの加藤敦彦さんに話していただきました。

彼の発表資料に対して一般の方から頂いたご意見、ご質問と、それに対する彼の回答も掲載しています。

まずは、発表資料「脱原発を実現するための科学技術と経済」(エネルギーノート)をダウンロードしてお読みください。

 

201308脱原発を実現するための科学技術と経済.pdf
PDFファイル 4.4 MB

 

< DISCUSSION >  加藤さんと読者・橋本さんの往復書簡 ------------------------------

 

■ 橋本さんからのご意見

エネルギーノートを拝読させて頂きました。幅広く資料を収集し、検討課題を提示されており、大変参考となります。小生は環境、エネルギー分野の専門家ではありませんが技術者の端くれとして、今後順次、脱原発を進めて行かねばならないと考えています。勝手ながら下記に小生の見解をご参考までにまとめましたので、ご笑覧下さい。今後ともエネルギー政策の動向に注目していきたいと考えます。

 

 

 

  1. 日本は古来、地震、津波が多く、万一原発事故発生時の被害は甚大となるリスクが過大で、リスク対策に限界があります。
  2. 未だに福島第一原発事故は収束されておりません。
  3. 使用済み核燃料の最終処分方法が確立されておらず、満杯状態にあります。
  4. 多大費用を投資した核燃料リサイクル処理設備はトラブル続きで未だまともに稼働しておらず、即時中止すべきと考えます。
  5. 40年要する廃炉処理方法が未だ確立されてません。
  6. 事故補償、最終処分、廃炉まで一式を含めた原発の経済性は成り立たないことは明白と考えます。
  7. 前項のように原発には多大な課題が山積みであり、これら課題をきちんと整理することなく、原子力規制委員会の審議のみで既設を再稼働すべきではないと考えます。
  8. 省エネ、節電、再生エネルギーなどの最大限活用を前提に国として今後のエネルギー政策を策定し、国民の合意を得ることが必須と考えます。今までは原発推進の方針で再生エネルギー活用は政策的に規制傾向にありました。
  9. 脱原発を先行して進めるドイツの現状と課題を大いに参考としたいものです。ドイツなどと国際技術協力を進めたいものです。
  10. マスコミも今後のエネルギー政策、前記原発課題、対策などについて最新特集記事を組んでほしいと考えます。 

 

■ 加藤さんからの返信

「脱原発」は政策ではありません。どうやって原発を止めるか、止めることの副作用をどうすれば最小限に留めることが出来るか、そこの議論を抜きに語れる問題ではありません。そこを展開して初めて政策になります。

 

資料の中でいくつかの政策課題を掲げましたが、多分もっとしなければならないことがあるでしょう。そして、その中には「原発反対」を唱える人にとって都合の悪いこともあります。推進派も反対派も自分にとって都合の良い部分だけつまみ食いしているので実りある進捗が見られないのです。

原発を続けることの功罪、そして止めることの功罪をバイアス無くテーブルの上に広げることが第一歩です。

 

技術的に日本がドイツに劣っているとは思いません。ただ、色々な思惑やしがらみで「できるのにできない」事があまりにも多い。阿部先生がアフリカに行かなければならなかった現実が多くを語ってます。かつ、ドイツは電力を輸入するという奥の手を持ってますが、日本にはそれがない。日本はドイツ以上にしなければならないことが沢山あります。なのにドイツの半分もできていない。

 

感情論で原発阻止を叫んでも益体(やくたい)ありません。緻密なロードマップとファイナンスを築き上げて行かねば成りません。その警鐘を鳴らしたくて今回の資料を作りました。

 

■ 加藤さんからの返信<追記>

原発は今日明日に止められるものではないので、その日が来るまで(やるべきことを全部やっても多分20年以上先)原発側でしなければならないことがいくつかあります。(これは資料には書いていません)

  1. 活断層に乗っている原発がどれか、科学的に検証する。活断層上の原発は再稼働の対象にしない。
  2. 非常用のバックアップ電源(及び燃料タンク)は20m以上の高台もしくは原子炉建屋内に移設
  3. グリッド電力の系統線の地中化
  4. 燃料棒の加熱から発生する蒸気で冷却ポンプを回すタービンの能率向上技術の開発。これは電源喪失に対するバックアップ
  5. 使用済み燃料の処理に関してフランスとの技術協力の強化

原子炉建屋は震度7にも耐えることが証明されたが、電源喪失が致命的であった。福島第一は電源があまりにも無防備なために起きた事故で、これは100%東京電力の怠慢による人災でした。(言い換えると防げた事故であった)

これは福島第一の近所にあった福島第二と女川との対比で見れば明らかです。

 

「もんじゅ」はあまりにもプロジェクト管理がお粗末で兆円単位の金をドブに捨てている。同じ体制を続けるなら成果は期待できないので即刻中止すべきでしょう。

 

使用済み燃料の再処理に関しては橋本さんの懸念の通りですが、実はCCS(CO2を地中、または深海に貯留すること)も同じ問題を抱えています。どこに捕まえたカーボンを貯蔵するか、結構悩ましい。

 

一つ異論を掲げるなら、事故補償は発電コストに含めるのは不適切と思います。というか、原発だけが事故補償を加算するのは公正を欠きます。例えばダムが活断層の上に乗っていないことは保証できません。誰も検証していないのですから。ダムが地震で決壊したら下流は全滅するでしょうから、これも大変な補償額です。

 

発電コストで計算が難しいのがグリッドへの接続コストです。これは慣例上、コストに含めないことが多いのですが、インフラが無い場所に設置することが多い再生可能エネルギー:以下RESと記す(Renewable Energy Sourceの略)は、この部分のコストは火力や原発より割高になりがちです。これもRES発電は大規模でなければならない理由の一つです。零細PPSばかり多数できてしまった日本は明らかに政策的なミスを犯しています。

 

■■ 橋本さんからの返信

ご多忙のところ、早速返信まことにありがとうございます。

従来、国策として原発を進めてきました。福島第一原発事故を契機に原発の課題が明白になってきました。今までこれら課題を国、原子力村関係者、マスコミなどが国民に巧妙に隠ぺいしてきた傾向にあります。

 

政府は安全が確認された原発から地元了解を経て、順次再稼働の意向です。早急に検討すべきことは、今後の基本的なエネルギー政策案を作成して、国民の合意を得ることと考えます。

 

具体的には原子力規制庁の安全基準のみならず、再稼働の場合、使用済み核燃料最終処分、廃炉などに伴う課題の対策、方針の事前検討が必須です。 また、順次、脱原発を進める場合、諸課題の対策、方針をきちんと検討し、今後脱原発を進めるか整理が必須です。

 

従来のように、諸課題を先送りしたままで、あいまいに原発を再稼働させてはなりません。ご指摘のように単に感情論ではなく、前記課題の詳細な検討に基づき国民が議論できるエネルギー政策案を早急に提示すべきと考えます。

 

ドイツは国策として10年以内に原発をなくす決定をし、順次実現に向け取り組んでおり、色々な課題に直面していますので、参考となりましょう。

 

■■ 加藤さんからの返信

ドイツの脱原発はチェルノブイリから始まってます(1986年)。

RESの政策的な普及策は2000年に始まってます。

そして、最終的な国内原発の全面廃止は2024年の計画です。

 

すなわち、2000年を実質的な脱原発元年と位置づけても24年かかる勘定です。かつ、ドイツは日本よりも条件的に恵まれています。何が違うか:

  1. 2024年に国内原発をゼロにすると言っても国内で原発電力を使わないとは言って いない→フランス等からの電力輸入は原発を使うということと等価である。従って、2024年の脱原発は本当の脱原発ではない
  2. RES発電適地が日本より遙かに多い

日本は今から必死に取り組んでも脱原発に20年以上かかる覚悟が必要という根拠はここにあります。そして、そのドイツにおいてすら電力代がこの間に3倍になったと言うことも気にする必要があります。「電気代が上がっても良いから脱原発を進めよう」という国民的合意があったにも関わらず、3倍の電気代にドイツ国民が一斉にNOを叫び始めました。

 

これを踏まえて日本で脱原発を進めるために何をし、何を我慢しなければならないか、

ちゃんと公開した上で合意を形成する手順が必要です。

 

日本の原発推進策を擁護するわけではありませんが、背景としてCOP3の議定書もあり、土地を使わずに手っ取り早く電力の「脱炭素」を実現するには最適でした。今、3.11を受けて脱炭素の方は棚上げ状態です。

 

ついでに言うとRESの普及に向けて絶対条件である電力の自由化。これは自民党も民主党も、脱原発の先頭に立っている共産党も本心はやりたくない。避けて通れなく成ったので渋々やってますが歩みは鈍い。支持基盤との調整があるために時間が掛かってるのでしょう。

それから、脱原発の議論に関してはマスコミを私はアテにしません。明らかに偏向しています。

 

> ご指摘のようにたんに感情論ではなく、前記課題の詳細な検討に基づき国民が議論できるエネルギー政策案を早急に提示> すべきと考えます。

 

仰る通りです。そのためには科学的な数字をもって色々な側面を検証する必要があります。私はこの種の議論で数字の裏付けがないものは信用しません。ドイツはエネルギー政策の背景となった数字、計算式、図表を全て公開しています。公開することによってあらゆる人がその数字の信憑性を検証し、議論が可能になります。

 

学会論文や特許の出願文書はそれを読んだ人が追試できる程度の情報公開が必要です。脱原発の議論もそれと同じ透明性が求められます。現状、推進派も反対派も隠し事が多くて困った物です。

 

■■■ 橋本さんからの返信

さらに詳細なコメントをありがとうございます。一般国民は新聞、テレビ、HP、書物などを通じて環境、エネルギーの各種情報を入手することになります。情報は豊富ですが、どの情報が真実なのか理解困難なケースが多くいつも困惑してしまいます。環境、エネルギー関係で貴殿の勧める主要情報源をご教示願えれば幸いです。

情報提供側は公正中立な情報提供に努力するとともに、国民側としては情報を選別し、正確に理解する能力を養わねばなりません。しかし、読売新聞は原発推進、朝日は新聞は脱原発に偏向しているように思われます。

 

ドイツのように国(政府)は背景、バックデータに基づきすべての情報を公開し、国民が議論できるようにしてほしいものです。電力自由化は政党の支持基盤事情などで左右されることなく、早急に電力自由化を進めるべきと考えます。発送変電分離、電力自由化により国民が各種エネルギーを選定できるようにしたいものです。

 

原発は経済的と言われてますが、事故対策補償、使用済み核燃料最終処分、廃炉処理費用などを総合評価すれば、決して経済性があるとは言えません。また、確かに二酸化炭素の排出は少ないですが、冷却に使用する海水温度上昇を生じています。現在LNGコストアップに伴い電気料金が上昇していますが、将来的にはシェールガス活用が期待されます。

 

現在、福島第一原発では放射能汚染水の海への大量放出が大きな問題となっています。この問題を東京電力は隠ぺいしてきた懸念があり、国と協力して早急に解決すべきです。漁業関係者には深刻な問題です。原子力規制庁で再稼働に向け審査中ですが、安全基準のみならず、明確になった多くの諸課題の対策を先送りさせることなく、決して再稼働させてはならないと考えます。

 

■■■ 加藤さんからの返信

> 環境、エネルギー関係で貴殿の勧める主要情報源をご教示願えれば幸いです

特定のソースに偏らないことが大事です。情報を載せている方は何か意図を持って出していることが多いので、反対意見も合わせて拾って行くことが必要になります。これはあるソースの主張に関して疑問を持った部分に対してGoogle検索をかけることで同じ問題に対する別意見を当たることが出来ます。

 

マスコミの情報は中でも信頼性は低いです。スポンサーが喜ぶことしか書きません。だから偏向するのです。

 

役所が公開している情報は基本的に信頼できます。役所は都合の悪いことには蓋をしますが、嘘はつけません。公開されている物は信用できると思います。ここがスポンサーのためには捏造、改竄を厭わないマスコミと違うところです。

ただ、役所の中でも意見の対立はあります。例えばRESの普及に関する規制緩和に関して経産省は前向き、国交省などは後向き、環境省は板挟み、という具合です。

 

それから、特定のトピックに関する情報を集めるときは必ず海外のソースも当たることが重要です。Googleでキーワードを入力する際は英語でやると内外のソースを同時に捕まえることができます。外国のソースも必ず中立であるという保証はありませんが、日本には無い視点で見ていることがあるのでチェックが必要です。外国のエネルギー政策などは日本のメディアを通った2次情報ではなく、必ず原典から取る。各国の担当省庁のWEBに行けば見つかります。

 

WEB外の情報源は学会、シンポジウム、展示会です。ただ、シンポジウムは主催者が誰であるか、気にしながら参加すること。中立でない主催者の場合はそういうフィルターを通った内容であることを留意下さい。また、こういうイベントでは事後の懇親会があることがありますが、なるべく参加しましょう。壇上では建前しか喋りませんが、アルコールが入ると思わず本音を聞けることがあります。現場に来ないと拾えない情報が落ちています。懇親会が無い場合はコーヒー休憩などの時間を活用します。